家計が苦しくなったとき、真っ先に見直したくなるのは食費や通信費かもしれません。けれど家計に占める割合がいちばん大きく、しかも簡単には下げられないのが家賃です。減らせない代わりに、滞納すると住まいそのものを失いかねません。
この家賃をいったん公費で支える制度が住居確保給付金です。生活困窮者自立支援法に基づく制度で、原則3か月・最長9か月にわたって、家賃相当額が自治体から大家さんや管理会社に直接支払われます。
「失業したときの制度」と思われがちですが、実際には離職していなくても対象になり得ます。自分の都合によらず勤務日数やシフトが減って収入が落ちた場合も要件に含まれているためです。この記事では、対象の考え方、支給額の計算、申請の流れを公式情報から整理します。
この記事でわかること
- 住居確保給付金の3つの主な要件(離職・収入・資産)
- 離職していなくても対象になり得るケース
- 支給額の計算式と、実際にいくらになるかのケース別試算
- 上限額が自治体で大きく違う理由と、東京都と大阪市の比較
- 令和7年4月に新設された「転居費用補助」の中身
失業手当そのものについては失業手当はもらえる?自己都合・会社都合・特定理由の判断ガイドで、退職前後の手続き全般は退職後の手続き、何から?で扱っています。この記事は住まいの費用にしぼった内容です。
まず結論:家賃相当額が大家に直接支払われます
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠 | 生活困窮者自立支援法(生活困窮者住居確保給付金) |
| 実施主体 | 市区町村(福祉事務所設置自治体) |
| 支給先 | 賃貸住宅の賃貸人や不動産仲介業者等へ、自治体から直接支払い |
| 支給期間 | 原則3か月間(延長は2回まで、最大9か月間) |
| 支給額の上限 | 自治体が定める額(生活保護法に基づく住宅扶助基準額が上限) |
| 申請窓口 | お住まいの市区町村の自立相談支援機関(区役所・市役所の相談窓口) |
| 返済 | 貸付ではなく給付です |
本人の口座に振り込まれるのではなく、大家さんや管理会社の口座へ自治体から直接支払われる形です。生活費に消えてしまうことなく、確実に住まいの維持に使われる設計になっています。
対象になる人:3つの要件
厚生労働省の生活支援特設ウェブサイトでは、主な支給要件が次のように整理されています。
1. 離職・廃業要件
主たる生計維持者が離職・廃業後2年以内である場合、もしくは個人の責任・都合によらず給与等を得る機会が、離職・廃業と同程度まで減少している場合
ポイントは後半です。いま働いていても対象になり得ます。大阪市は「『ご自身の都合によらない就業機会等の減少』は、現在の職業を離職、廃業していただく必要まではありません」と明記しています。
同市が挙げている例は具体的です。
- フリーで活動しているスポーツジムのインストラクターで、契約先のジムが一部休業し、週4〜5日の活動が週2〜3日程度以下になった
- アルバイトを2つ掛け持ちしていたが、景気の悪化で1つの事業所が休業となり、シフトがなくなった
一方で、自分の意思で勤務日数や就労時間を減らした場合は対象外とされています。自分では動かせない事情による減収かが分かれ目です。
2. 収入要件
直近の月の世帯収入合計額が、市町村民税の均等割が非課税となる額の1/12と、家賃(但し、上限あり)の合計額を超えていないこと
実務上は、自治体が「基準額」と「収入基準額」を表で示しています。この基準額が、住民税の均等割が非課税になる水準を月額に直したものにあたります(住民税非課税世帯とは?)。
大阪市の場合、収入として算定するもの・しないものが明示されています。
- 算定する:給与収入(社会保険料等の天引き前の総支給額、交通費は除く)、自営業の事業収入(経費控除後)、雇用保険の失業等給付、健康保険の傷病手当金、年金生活者支援給付金、公的年金など
- 算定しない:児童手当、児童扶養手当、借入金、退職金など
失業手当や傷病手当金は収入に数えられる一方、児童手当や児童扶養手当は数えられません。この区別を知らないまま「収入が多いから無理だろう」と諦めてしまうのはもったいないところです。
3. 資産要件
世帯の預貯金合計額が、各市区町村で定める額(基準額の6月分。ただし、100万円を超えない額)を超えていないこと
大阪市・東京都大田区とも、単身世帯552,000円、2人世帯834,000円、3人世帯以上1,000,000円としています。大阪市によると、対象は現金・預貯金・債券・株式・投資信託・暗号資産などの合計で、生命保険や個人年金保険は含まれず、負債があっても相殺はしないとされています。
4. 求職活動等の要件
厚生労働省は「ハローワーク等に求職の申込をし、誠実かつ熱心に求職活動を行うこと」として、次を例示しています。
- 自立相談支援機関の面接(月4回以上)
- ハローワークへの求職申込、職業相談(月2回以上)
- 企業等への応募(週1回以上)
なお大阪市は、やむを得ない休業等による収入減少を理由に申請する場合について、市が認めるときは申請月から3か月間、自立に向けた取組をもって求職の申込みに代えられる取扱いを示しています。運用は自治体で異なるため、窓口で確認するのが確実です。
実際にいくらになるか(計算してみる)
支給額の計算式は、多くの自治体が同じ形で公表しています。大阪市の記載は次のとおりです。
支給額(上記支給額が上限)=基準額+実際の家賃額-月の世帯収入
そして、収入が基準額以下の場合は、上限額の範囲内で家賃額がそのまま支給額になる、と案内している自治体が一般的です(東京都大田区など)。
大阪市の単身世帯を例に、数字を入れてみます。
| 項目 | 大阪市・単身世帯 |
|---|---|
| 基準額 | 92,000円 |
| 支給額の上限(家賃上限) | 40,000円 |
| 収入基準額 | 132,000円(=92,000+40,000) |
家賃45,000円のワンルームに住んでいる方が申請した場合を、月収別に計算します。
| 月の世帯収入 | 判定 | 計算 | 支給額(目安) |
|---|---|---|---|
| 85,000円 | 基準額以下 | 家賃額(上限40,000円) | 40,000円 |
| 110,000円 | 基準額超・収入基準額以下 | 92,000+45,000−110,000 | 27,000円 |
| 125,000円 | 同上 | 92,000+45,000−125,000 | 12,000円 |
| 132,000円 | 収入基準額ちょうど | 92,000+45,000−132,000 | 5,000円 |
| 135,000円 | 収入基準額超 | — | 対象外 |
収入が増えるほど支給額が細っていき、収入基準額を1円でも超えると対象外になる、という設計です。上限いっぱいの40,000円が9か月続いた場合、合計は360,000円が目安になります。
上限額は自治体で大きく違います
同じ単身世帯でも、家賃の上限額は住んでいる地域で変わります。基準額(92,000円)が同じでも、上限が違えば結果が変わります。
| 自治体 | 単身世帯の基準額 | 単身世帯の家賃上限 | 収入基準額 |
|---|---|---|---|
| 大阪市 | 92,000円 | 40,000円 | 132,000円 |
| 東京都大田区 | 92,000円 | 53,700円 | 145,700円 |
大田区の場合、2人世帯は64,000円、3〜5人世帯は69,800円が上限です。大阪市は2人世帯48,000円、3〜5人世帯52,000円。1万円以上の差が出ます。これは生活保護法に基づく住宅扶助基準額が地域ごとに定められているためで、家賃相場の違いが反映されています。
ネットで見た他の地域の金額は、そのまま自分に当てはめられません。必ずお住まいの市区町村が公表している表をご覧ください。なお、いずれも上記は各自治体が公表している時点の額であり、見直される場合があります。
手続き・流れ
相談から支給まで
- お住まいの市区町村の自立相談支援機関に相談(区役所・市役所の生活困窮者自立支援の窓口)。混雑を避けるため事前の電話・メール連絡を求めている自治体もあります
- 申請書と必要書類を提出
- 審査・決定
- 大家さんや管理会社の口座へ自治体から直接支払い
- 受給中は毎月の求職活動等を報告
必要書類の例(大阪市の場合)
- 本人確認ができる書類(顔写真がない書類の場合は2点)
- 2年以内に離職・廃業したことが確認できる書類、または本人の都合によらず収入が減少したことが分かる書類
- 申請日の属する月の収入が確認できる書類(給与明細、通帳の写しなど)
- 金融資産が確認できる書類(通帳の写しなど)
- ハローワーク等での求職登録(2年以内の離職・廃業を理由に申請する場合)
- 入居住宅に関する状況通知書(家主・管理会社等に記入してもらうもの)
- 賃貸借契約書の写し(全ページ)
収入と資産の書類は、同一世帯の方全員分が必要とされています。家主や管理会社に記入してもらう書類があるため、思い立ってその日に完結する手続きではありません。早めに相談を始めるほど選択肢が残ります。
令和7年4月から「転居費用補助」も始まりました
厚生労働省は、令和7年4月の制度変更として住居確保給付金の拡充を挙げ、「収入が大きく減少し、住まいを失った者、または家賃を支払えなくなりそうな者で、家計の改善のために、家賃が安い住宅に転居する必要がある方を対象に、新たに転居に要する費用を支給する」と説明しています。
大阪市の案内によると、対象になる費用・ならない費用は次のとおりです。
- 対象:家財の運搬費用、転居先の初期費用(礼金、仲介手数料、家賃債務保証料、住宅保険料)、ハウスクリーニングなどの原状回復費用、鍵交換費用
- 対象外:敷金、契約時に払う家賃(前家賃)、家財や設備(風呂釜、エアコン等)の購入費用
支給上限は転居先の市町村の住宅扶助基準額をもとに定められ、大阪市の場合は1人208,000円、2人224,000円、3人240,000円、4人256,000円、5〜6人272,000円、7人以上288,000円とされています。
利用にあたっては事前に家計改善支援事業の相談支援を受ける必要があり、転居によって家計が改善すると認められることが要件です。大阪市も「家計改善支援事業を利用された方全員が、転居の必要性を認められるわけではありません」としています。
対象として想定されているのは、配偶者と死別して年金収入が減った高齢者、病気で離職・休業して収入を増やしにくい方、持ち家の維持が難しく賃貸への住み替えが必要な方などです。家賃補助とは別の給付なので、混同しないようご注意ください。
注意点:見落としやすいところ
- 共益費・管理費・光熱水費・駐車場代・借地代は対象外です。支給の対象は家賃相当分にかぎられます
- 敷金・礼金などの入居初期費用は家賃補助の対象外です。大阪市は、初期費用の支払いが難しい場合の選択肢として社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度(総合支援資金の住宅入居費)を案内しています
- すでに滞納している家賃への充当はできません。滞納が膨らむ前に相談するほうが、使える制度は多くなります
- 持ち家(住宅ローン)の方は家賃補助の対象外です。大阪市は住宅ローンの相談先として金融庁のページを案内しています
- 他の類似の給付を受けていないことが要件に含まれます
- 再支給には条件があります。大阪市の案内では、就職や収入増のあとに再び離職・減収した場合で、従前の支給が終了した月の翌月から1年を経過しているときなどに、申請により再支給できる場合があるとされています
- 基準額・上限額・運用は自治体ごとに異なり、見直されることもあります
よくある質問
Q1. 働いていますが対象になりますか。
A. 厚生労働省の要件では、離職・廃業後2年以内のほか、「個人の責任・都合によらず給与等を得る機会が、離職・廃業と同程度まで減少している場合」も含まれます。就労を続けたままでも、収入・資産などの要件を満たせば対象になり得ます。ご自身のケースが該当するかは自立相談支援機関にご相談ください。
Q2. 貸付ですか。あとで返す必要はありますか。
A. 住居確保給付金は貸付ではなく給付です。返済は原則として必要ありません。ただし、要件を満たさなくなった場合や虚偽の申請があった場合の取扱いは自治体の定めによります。
Q3. 失業手当を受けていても申請できますか。
A. 雇用保険の失業等給付は収入として算定されます。そのうえで収入基準額以下であれば対象になり得ます。失業手当の額によっては基準を超える場合があるため、窓口で確認してください。
Q4. 3か月で決まらなかった場合、延長できますか。
A. 厚生労働省は「原則3か月間(延長は2回まで最大9か月間)支給」としています。延長には要件があり、求職活動等の状況が確認されます。詳しくは支給決定を受けた自治体にご確認ください。
Q5. 家賃が上限額より高い部屋に住んでいます。対象外ですか。
A. 家賃が上限額を超えていても、支給額が上限額までになるだけで、それ自体で対象外になるわけではありません。ただし収入基準額の計算では家賃額に上限が適用されます。家賃負担が重い場合は、令和7年4月に新設された転居費用補助の相談も選択肢になります。
まとめ
- 住居確保給付金は、家賃相当額を原則3か月・最長9か月、自治体が大家さんへ直接支払う給付制度です
- 離職・廃業後2年以内のほか、自分の都合によらない収入減少でも対象になり得ます
- 支給額は「基準額+実際の家賃額−月の世帯収入」で計算し、上限額を超えません
- 収入が基準額以下なら、上限内で家賃額が支給されるのが一般的です
- 上限額は自治体で違います(単身の例:大阪市40,000円/東京都大田区53,700円)
- 資産要件は単身552,000円・2人834,000円・3人以上1,000,000円が例として示されています
- 児童手当・児童扶養手当・借入金・退職金は収入に算定されません
- 共益費・敷金礼金・滞納家賃・持ち家は家賃補助の対象外です
- 令和7年4月から転居費用補助が新設されました(家計改善支援事業の相談が前提)
- 最新情報は厚生労働省 生活支援特設ウェブサイト「住居確保給付金」とお住まいの市区町村の公式サイトで必ずご確認ください
まず確認したいのは、①お住まいの市区町村の基準額・家賃上限額の表、②直近の月の世帯収入と金融資産の合計、③自立相談支援機関の連絡先、の3点です。滞納してからでは使えない制度もあります。払えなくなりそうだと感じた段階で相談窓口に連絡しておくのが、選択肢をいちばん広く残す方法です。
迷ったときの問い合わせ先
- 申請・要件の確認:お住まいの市区町村の自立相談支援機関(区役所・市役所の生活困窮者自立支援窓口)
- 求職活動・職業相談:ハローワーク
- 入居初期費用の貸付:お住まいの都道府県・市区町村の社会福祉協議会(生活福祉資金貸付制度)
- 住宅ローンの返済相談:金融庁・財務局・銀行協会などの相談窓口
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参考資料
- 厚生労働省 生活支援特設ウェブサイト「住居確保給付金」
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」
- 厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(令和7年4月)について」
- 大阪市「住居確保給付金(家賃補助)」
- 大阪市「住居確保給付金(転居費用補助)」
- 東京都大田区「住居確保給付金」
最終確認日
最終確認日: 2026-09-03
本サイトは公的機関ではありません。基準額・家賃上限額・資産要件・求職活動要件・転居費用補助の運用は市区町村ごとに異なり、年度によっても変わります。記事中の金額は各自治体が公表した時点のものです。ご自身が対象になるかどうかの判断は、お住まいの市区町村の自立相談支援機関でご確認ください。