退職金の金額が会社から示されたとき、多くの方が最初に気にするのが「ここから税金でどれくらい引かれるのか」という点ではないでしょうか。
退職金にかかる税金は、給与や賞与とはまったく別のルールで計算されます。国税庁によると、退職金は「退職所得」として、給与などの所得と分けて(分離して)税額を計算することとされており、しかも勤続年数に応じた大きな控除が用意されています。そのため、同じ1,000万円でも、勤続8年の人と勤続30年の人とでは税額が大きく変わります。
この記事では、退職金にかかる所得税・住民税のしくみと計算の手順を、国税庁と総務省の公式情報をもとに整理しました。
この記事でわかること
- 退職所得の計算式(控除を引いて2分の1になるしくみ)
- 勤続年数から退職所得控除額を求める方法
- 退職金の金額別・勤続年数別の税額と手取りの計算例
- 「退職所得の受給に関する申告書」を出さないと何が起きるか
- 令和8年1月から変わった、iDeCoの一時金と退職金の調整ルール
会社を辞めたあとの健康保険や年金の切り替えについては、退職後の手続き、何から?健康保険・年金・税金・失業手当の判断ガイドで全体像を整理しています。この記事は、そのうち退職金そのものにかかる税金にしぼった内容です。
まず結論
退職金の税金の要点は、次の5つです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所得の種類 | 退職所得(他の所得と分離して計算) |
| 計算式 | (退職金の額 − 退職所得控除額)× 1/2 |
| 退職所得控除 | 勤続20年以下は年40万円、20年超の部分は年70万円 |
| 所得税 | 退職所得の金額に応じた税率(+復興特別所得税2.1%相当) |
| 住民税 | 退職所得の金額の10%(市町村民税6%+道府県民税4%)を退職金から特別徴収 |
大きな特徴は3つあります。ひとつは、勤続年数が長いほど控除が大きくなること。もうひとつは、控除を引いた残りをさらに2分の1にしてから税率をかけること(一部の例外を除く)。そして、原則として会社が源泉徴収してくれるため、多くの場合は確定申告が不要であることです。
長く勤めた方の場合、退職金の全額が控除の枠に収まって税額がゼロになることも珍しくありません。
退職所得控除額の計算方法
国税庁のタックスアンサーNo.1420によると、退職所得控除額は勤続年数に応じて次のように計算します。
| 勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × A(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(A − 20年) |
勤続年数に1年未満の端数があるときは、1年に切り上げます。たとえば勤続10年2か月なら11年として計算します。
具体的に当てはめると、次のようになります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 5年 | 40万円 × 5年 = 200万円 |
| 11年 | 40万円 × 11年 = 440万円 |
| 20年 | 40万円 × 20年 = 800万円 |
| 30年 | 800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円 |
| 38年 | 800万円 + 70万円 × 18年 = 2,060万円 |
なお、障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、上の計算で求めた額に100万円を加えた金額が退職所得控除額になるとされています。
実際にいくらになるか(計算例)
ここからは、国税庁が示している計算例をもとに、住民税まで含めた金額を見ていきます。所得税の税率は課税退職所得金額に応じて決まり、算出した所得税額に102.1%を掛けたものが所得税と復興特別所得税の合計額になります。
例1:勤続10年2か月・退職金800万円
- 勤続年数:10年2か月 → 11年(端数切り上げ)
- 退職所得控除額:40万円 × 11年 = 440万円
- 課税退職所得金額:(800万円 − 440万円)× 1/2 = 180万円
- 所得税+復興特別所得税:180万円 × 5% × 102.1% = 91,890円
- 住民税:180万円 × 10% = 180,000円(市町村民税108,000円+道府県民税72,000円)
税額の合計は約27万2,000円。手取りはおよそ772万8,000円という計算になります。800万円に対して負担率は約3.4%です。
例2:勤続29年2か月・退職金2,300万円
- 勤続年数:29年2か月 → 30年
- 退職所得控除額:800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
- 課税退職所得金額:(2,300万円 − 1,500万円)× 1/2 = 400万円
- 所得税+復興特別所得税:(400万円 × 20% − 427,500円)× 102.1% = 380,322円
- 住民税:400万円 × 10% = 400,000円
税額の合計は約78万円。手取りはおよそ2,222万円で、負担率は約3.4%にとどまります。
例3:勤続38年・退職金2,000万円
退職所得控除額は800万円+70万円×18年=2,060万円です。退職金2,000万円は控除額の枠内に収まるため、課税退職所得金額は0円となり、所得税・住民税ともにかからない計算になります。
このように、勤続年数が長いほど「税金がまったくかからない」ケースが出てきます。自分の勤続年数で控除額がいくらになるかを先に確認しておくと、見通しが立てやすくなります。
「退職所得の受給に関する申告書」を出したかどうかで変わる
退職金にかかる税金でつまずきやすいのが、この書類です。
国税庁のタックスアンサーNo.2732によると、退職する人から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合、会社は上で見た方法で税額を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は必要ありません。
一方、この申告書を提出していない場合は、退職金の支給額に一律20.42%の税率を掛けた所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。国税庁の例では、退職金800万円で申告書の提出がない場合、源泉徴収税額は1,633,600円になるとされています。例1で見た91,890円と比べると、150万円以上の差です。
この場合でも税金を取られっぱなしになるわけではなく、受給者本人が確定申告をすることで精算できるとされています。ただし、還付を受けるためには自分で申告する必要があります。退職時に会社から書類を渡されたら、内容を確認して提出しておくのが安心です。
2分の1計算が使えないケース
退職金は「控除を引いて2分の1」が基本ですが、勤続年数が短い場合には例外があります。
特定役員退職手当等(役員等の勤続5年以下)
役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職手当等は「特定役員退職手当等」に該当し、2分の1の計算は適用されません。退職金から退職所得控除額を差し引いた額が、そのまま退職所得の金額になります。
ここでいう「役員等」には、法人の取締役・執行役・会計参与・監査役・理事・監事などのほか、国会議員や地方議会の議員、国家公務員・地方公務員が含まれるとされています。
短期退職手当等(役員以外で勤続5年以下)
役員等以外の人で勤続年数が5年以下の場合は「短期退職手当等」に該当します。この場合、退職金から退職所得控除額を差し引いた額のうち、300万円を超える部分については2分の1計算が適用されません。300万円までの部分は通常どおり2分の1になります。この取扱いは、令和4年1月1日以後に支払うべき退職手当等について適用されるとされています。
令和8年1月から変わった「iDeCoの一時金」との調整
もうひとつ、2026年(令和8年)に押さえておきたい改正があります。
退職所得控除には、短い期間に複数の退職金や一時金を受け取ったときに控除が重複しないよう調整するしくみがあります。国税庁のタックスアンサーNo.2732によると、この調整ルールが次のように整理されています。
| 前に受け取ったもの | 調整の対象となる期間 |
|---|---|
| 通常の退職手当等 | 前年以前4年内 |
| 確定拠出年金法にもとづく老齢給付金としての一時金(令和8年1月1日以後に受け取ったもの) | 前年以前9年内 |
| 前に退職手当等を受け取り、本年中にiDeCo等の老齢一時金を受け取る場合 | 前年以前19年内 |
つまり、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DCの一時金を受け取ってから会社の退職金を受け取る場合、令和8年1月1日以後に受け取った一時金については、さかのぼって見る期間が4年から9年に広がったことになります。受け取る順番と時期によって退職所得控除の使い方が変わるため、両方を受け取る予定がある方は、事前に金額と時期を確認しておくとよいでしょう。
iDeCoそのもののしくみについては、iDeCoとつみたてNISAの違い・自分に合う選び方もあわせてご覧ください。なお、どちらの受け取り方が有利かは個別の事情によって変わりますので、判断に迷う場合は税理士などの専門家にご相談ください。
住民税はどう計算されるか
退職所得にかかる住民税は、給与にかかる住民税と扱いが異なります。
総務省の説明によると、退職所得に対する住民税は、退職手当等の支払を受けるべき日(通常は退職した日)の属する年の1月1日現在の住所地の市区町村が課税します。そして、退職金の支払いの際に特別徴収(会社が差し引いて納付)されるしくみです。
計算の際の端数処理は次のとおりとされています。
- 退職所得の金額(控除後に2分の1を掛けた額)に1,000円未満の端数があるときは、1,000円未満を切り捨てる
- 特別徴収すべき税額(市町村民税額・道府県民税額)に100円未満の端数があるときは、それぞれ100円未満を切り捨てる
また、平成24年12月31日までは税額から10%を控除する取扱いがありましたが、平成25年1月1日以降はこの控除が廃止されています。古い解説記事にはこの10%控除が残っていることがあるため、注意が必要です。
所得税と住民税の基本的な違いについては、所得税と住民税の違いをわかりやすく解説もあわせてどうぞ。
手続き・確認するポイント
退職金を受け取るときに確認しておきたいのは、次の点です。
退職前〜退職時
- 「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出したか:提出がないと20.42%が源泉徴収されます
- 勤続年数の起算日:長期の欠勤や病気での休職の期間は勤続期間に含まれるとされています。一方、過去に同じ会社から退職金を受け取っている場合など、勤続期間から除かれる期間もあります
- 同じ年に2か所以上から退職金を受け取る予定はないか:控除額の計算が変わることがあります
退職後
- 源泉徴収票を保管する:「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」が交付されます
- 確定申告をする場合は退職所得も記載する:医療費控除や寄附金控除を受けるために確定申告書を提出する場合、確定申告書に退職所得の金額を記載する必要があるとされています
- 申告書を出し忘れた場合は確定申告で精算する
確定申告が必要になるかどうか全体を確認したい方は、確定申告、必要?会社員・副業・自営業の判断ガイドもご覧ください。
注意点
- 税制は改正されます。退職所得の取扱いは近年も見直しが行われています。実際に受け取る時点の最新の情報を、国税庁の公式サイトでご確認ください
- 住民税の税率は自治体によって異なる場合があります。標準税率と異なる税率を採用している自治体もあるため、正確な金額は市区町村の税務担当課にご確認ください
- 年金形式で受け取る場合は取扱いが変わります。退職金を分割して年金として受け取る場合は退職所得ではなく雑所得(公的年金等)として扱われ、公的年金等控除の対象になるなど計算が異なります
- 死亡退職の場合は所得税ではなく相続税の対象になることがあります。国税庁によると、死亡退職により支払う退職手当等で相続税の課税対象となるものは所得税の課税対象とならないとされています
- 勤続年数の数え方や重複期間の調整は複雑です。転職や再雇用を経ている場合、iDeCoと併用する場合など、個別の判断は税務署または税理士にご確認ください
よくある質問
Q1. 退職金から社会保険料は引かれますか?
A. 退職金にかかる税金と社会保険料の取扱いは別の制度で定められています。退職金の支払いの際に差し引かれるものについては、勤務先の担当部署や加入している健康保険・年金事務所にご確認ください。
Q2. 退職金を受け取ると、翌年の国民健康保険料が上がりますか?
A. 退職所得は他の所得と分離して課税されるため、国民健康保険料の計算に使う所得には含まれない、と案内している自治体があります。たとえば横浜市は、保険料の所得割額の算定に用いる「総所得金額等」について「退職所得は含みません」と説明しています。ただし取扱いは制度や自治体によって異なる場合があるため、お住まいの市区町村にご確認ください。退職後にどの健康保険に入るかを整理したい方は退職後の健康保険、どれを選ぶ?扶養・任意継続・国保の判断ガイドもあわせてご覧ください。
Q3. 勤続年数が19年11か月です。20年として計算されますか?
A. 国税庁によると、勤続期間に1年未満の端数があるときは1年に切り上げるとされています。19年11か月であれば20年として計算し、退職所得控除額は40万円×20年=800万円となります。ちょうど20年と20年超で計算式が変わるため、境目にあたる方は数え方を勤務先に確認しておくと安心です。
Q4. 退職金と失業手当(基本手当)は両方受け取れますか?
A. 失業手当は雇用保険の制度、退職金は勤務先の制度で、それぞれ別の要件で判断されます。失業手当の受給要件や手続きについては失業手当はもらえる?自己都合・会社都合・特定理由の判断ガイドをご覧ください。なお、失業手当(基本手当)は非課税とされています。
Q5. 退職所得の申告書を出したのに、確定申告をする必要があるのはどんなときですか?
A. 国税庁は、医療費控除や寄附金控除の適用を受けるなどの理由で確定申告書を提出する場合には、確定申告書に退職所得の金額を記載する必要があるとしています。また、その年の給与所得などが少なく所得控除を引ききれない場合に、確定申告をすることで還付を受けられることがあります。判断に迷う場合は税務署または税理士にご相談ください。
まとめ
- 退職金は「退職所得」として、他の所得と分離して税額を計算する
- 計算式は(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2。勤続20年以下は年40万円、20年超の部分は年70万円が控除される
- 勤続年数の1年未満の端数は1年に切り上げる
- 勤続30年・退職金2,300万円のケースでは、所得税+住民税が約78万円(負担率約3.4%)という計算になる
- 勤続38年・退職金2,000万円なら、控除額2,060万円の枠内に収まり税額は0円という計算になる
- 「退職所得の受給に関する申告書」を出していないと一律20.42%が源泉徴収される。確定申告で精算できる
- 令和8年1月1日以後にiDeCo等の老齢一時金を受け取った場合、退職所得控除の調整でさかのぼる期間が前年以前9年内に広がった
- 最新情報は国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」で必ずご確認ください
退職金の税額は、勤続年数の数え方、過去の退職金の受け取り、iDeCoとの兼ね合いなどで変わります。ご自身のケースでいくらになるかの判断は、税務署または税理士にご相談ください。
迷ったときの問い合わせ先
- 退職所得の計算・確定申告:所轄の税務署、国税局電話相談センター
- 「退職所得の受給に関する申告書」の提出:勤務先の人事・給与担当部署
- 住民税の特別徴収額:1月1日時点で住んでいた市区町村の税務担当課
- iDeCo・企業型DCの受け取り方:加入している運営管理機関、勤務先の担当部署
- 複雑なケースの相談:税理士
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参考資料
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」
- 総務省「平成25年1月1日以降の退職所得に対する住民税の特別徴収について」
- 横浜市「保険料に関する用語説明(国民健康保険)」
最終確認日
最終確認日: 2026-08-06
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