秋になると、老齢年金を受け取っている方のもとに、日本年金機構から「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」が届きます。毎年届くものの、「出さないといけないのか」「何を書けばよいのか」と迷う書類のひとつです。
令和9年分(2027年に支払われる年金の分)からは、税制改正によって提出の対象が広がり、これまで届いていなかった方にも書類や案内が届いています。この記事では、提出が必要な人・不要な人の見分け方と、書き方のポイント、期限を過ぎたときの対応を、日本年金機構と国税庁の公式情報にもとづいて整理します。
この記事でわかること
- 扶養親族等申告書が何のための書類か
- 令和9年分で変わった点(提出対象の拡大・源泉徴収の基準額)
- 提出が必要な人と、届いても提出しなくてよい人
- 配偶者・親族を記載できる所得の目安と、源泉徴収額への影響
- 期限・提出方法と、期限を過ぎたり出し忘れたりしたときの対応
まず結論:控除に当てはまる人だけが提出する書類
扶養親族等申告書は、老齢年金から差し引かれる所得税(源泉徴収)と、お住まいの市区町村の住民税で、配偶者控除・扶養控除・障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除などを反映させるための書類です。日本年金機構は、年金の受給者が提出した申告書をもとに源泉徴収税額を計算しています。
ポイントは次の3つです。
- 届いた人全員が提出するわけではありません。 本人が障害者・寡婦・ひとり親に当てはまらず、控除の対象になる配偶者や親族(退職手当を受ける見込みの配偶者・親族を含む)もいない場合は、提出の必要はないと案内されています。
- 令和9年分から、所得税が源泉徴収されない方でも提出が必要な場合があります。 年金額が、お住まいの市区町村の「単身者の住民税の非課税限度額」以上で、控除に当てはまる方が対象に加わりました。
- 期限を過ぎても提出できます。 提出が遅れると、いったん控除がない状態で源泉徴収されますが、提出後にさかのぼって再計算されると案内されています。
対象になる人(ケース別)
令和9年分の「送付」と「提出」の基準
日本年金機構は、提出が必要になる可能性がある方に広く案内を送っています。そのため、届いたこと=提出が必要、ではありません。
| 区分 | 65歳未満 | 65歳以上 |
|---|---|---|
| 申告書(または電子申請の案内)が送られる年金額 | 年98万円以上 | 年148万円以上 |
| 所得税の源泉徴収の対象になる年金額 | 年164万円以上 | 年214万円以上 |
※年齢は令和9年12月31日時点。対象は老齢・退職を理由とする年金(老齢福祉年金を除く)。退職共済年金を受け取っていて老齢基礎年金も支給されている方は、別の基準(送付は退職共済年金の額が70万円以上、源泉徴収は137万円以上)が示されています。
源泉徴収の対象になる年金額は、年分ごとに次のように変わっています。
| 年分 | 65歳未満 | 65歳以上 |
|---|---|---|
| 令和7年分まで | 108万円以上 | 158万円以上 |
| 令和8年分 | 155万円以上 | 205万円以上 |
| 令和9年分以降 | 164万円以上 | 214万円以上 |
住民税の「単身者の非課税限度額」
所得税が源泉徴収されない年金額でも、次の非課税限度額以上であれば住民税の課税対象になり得るため、控除に当てはまる方は提出が必要とされています。限度額は、生活保護の基準にあわせた市区町村の「級地」で異なります。
| 級地 | 65歳未満 | 65歳以上 |
|---|---|---|
| 1級地 | 105万円 | 155万円 |
| 2級地 | 101.5万円 | 151.5万円 |
| 3級地 | 98万円 | 148万円 |
お住まいの市区町村が何級地かは、日本年金機構の「住民税の非課税限度額基準について」のページか、市区町村の窓口で確認できます。
ケース別の考え方
- 年金だけで暮らす単身の方(障害者・寡婦・ひとり親に該当しない):控除に当てはまるものがないため、届いても提出は不要とされています。基礎控除は、申告書を出さなくても源泉徴収の計算に入ります。
- 所得が少ない配偶者がいる方:年金額が上の基準以上なら、提出の対象です。配偶者の収入が年金だけなら、65歳以上で年金172万円以下、65歳未満で122万円以下であれば、所得62万円以下に当たると案内されています。
- 年金が源泉徴収の基準より少なく、住民税だけかかる方:たとえば65歳以上で年金が160万円、配偶者を扶養している場合、所得税は源泉徴収されませんが、非課税限度額(最大155万円)以上のため、令和9年分は提出が必要になる場合があります。
- 年金のほかに給与などの収入がある方:申告書を提出していても、確定申告が必要になる場合があると案内されています(後述)。
確認するポイント
1. 配偶者・親族の所得要件(令和9年分)
令和8年度の税制改正で、配偶者以外の親族の所得要件が「58万円以下」から「62万円以下」に引き上げられました。日本年金機構の案内をもとに整理すると、次のとおりです。
| 記載する人 | 年間所得の見積額の目安 |
|---|---|
| 源泉徴収で控除される配偶者 | 95万円以下(受給者本人の所得が900万円以下の場合) |
| 扶養親族(配偶者以外・16歳以上) | 62万円以下 |
| 19歳〜22歳の親族 | 62万円超85万円以下も「源泉控除対象親族」として源泉徴収時に控除 |
| 16歳未満の子 | 所得税の扶養控除はないが、住民税の欄に記載(障害者に当たる場合は障害者控除の対象) |
19歳〜22歳は、平成17年1月2日から平成21年1月1日までに生まれた方です。この年代の親族の所得が85万円超123万円以下の場合は、源泉徴収では控除されず、確定申告で特定親族特別控除を受けられると案内されています。配偶者の所得が95万円超133万円以下の場合も、確定申告で配偶者特別控除を受けられる場合があります。
所得は「収入から控除額を差し引いた額」で考えます。年金の場合、65歳以上(昭和38年1月1日以前生まれ)で年金額330万円以下なら公的年金等控除は110万円、65歳未満で130万円以下なら60万円です。
2. 障害年金・遺族年金は所得に含めない
配偶者や親族が受け取っている障害年金・遺族年金は非課税所得のため、所得の見積額には含めないと案内されています。健康保険の扶養の判定では含めるため、税と健康保険で扱いが逆になる点に注意が必要です(親を扶養に入れる条件でも整理しています)。
3. 判定は「提出する日の状況」
記載する配偶者・親族が控除の対象になるかどうかは、申告書を提出する日の状況で見積もった令和9年の所得で判定するよう案内されています。提出後に結婚や扶養の変更があった場合は、翌年に確定申告などで精算することになります。
4. 夫婦とも年金を受けている場合
同じ子どもを夫婦それぞれの申告書で扶養の対象にすることはできません。また、夫婦の一方がもう一方を扶養の対象にした場合、もう一方の申告書で相手を扶養の対象にすることもできないとされています。
控除の有無で源泉徴収額はどう変わるか
日本年金機構の資料によると、年金の源泉徴収税額は次の式で計算されます。合計税率5.105%は、所得税率5%に、防衛特別所得税と復興特別所得税の分を加えたものです。
- 申告書を提出した場合:(年金支給額 − 社会保険料 − 各種控除額)× 5.105%
- 申告書を提出しない場合:(年金支給額 − 社会保険料 − 基礎控除相当額)× 5.105%
社会保険料は、年金から天引きされた介護保険料と国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)です。主な控除額(1か月あたり)は次のとおりです。
| 控除の種類 | 1か月あたりの控除額 |
|---|---|
| 公的年金等控除・基礎控除相当(全員) | 年金月額×25%+11万円(最低額は65歳未満14万円・65歳以上18万円) |
| 配偶者(一般) | 32,500円 |
| 配偶者(70歳以上) | 40,000円 |
| 扶養親族(一般) | 32,500円×人数 |
| 特定扶養親族・特定親族 | 52,500円×人数 |
| 老人扶養親族 | 40,000円×人数 |
| 障害者(普通・特別・同居特別) | 22,500円/35,000円/62,500円×人数 |
| 寡婦/ひとり親 | 22,500円/32,500円 |
計算例(1か月あたりの目安):70歳・年金年300万円(月25万円)、天引きの社会保険料を月1.5万円と仮定し、所得62万円以下の70歳以上の妻がいる場合。
- 基礎控除相当:25万円×25%+11万円=17.25万円 → 最低額の18万円
- 申告書を提出した場合:(25万−1.5万−18万−4万)×5.105% ≒ 月765円
- 提出しない場合:(25万−1.5万−18万)×5.105% ≒ 月2,807円
この例では、1か月あたり約2,000円、年間で2万円台の差になります。実際の年金は通常2か月分ずつ支払われ、端数処理もあるため、正確な金額は年金振込通知書や源泉徴収票で確認してください。
手続き・流れ
1. 届いた書類と期限を確認する
令和9年分は、日本年金機構から次の時期に案内されています。期限は、届いた申告書の表面に印字されています。
| 対象(年金額) | 紙の申告書の送付 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 65歳未満164万円以上・65歳以上214万円以上 | 令和8年9月7日〜9月30日 | 令和8年10月20日 |
| 65歳未満98万〜164万円未満・65歳以上148万〜214万円未満 | 令和8年10月5日〜10月30日 | 令和8年11月30日 |
昭和36年1月2日以降生まれの方には、紙の申告書ではなく電子申請の手引きが届きます。10月20日までに電子申請での提出がない場合は、11月に改めて紙の申告書が送られる予定です。前年に電子申請で提出した方やペーパーレス化の登録をした方には、マイナポータルなどのお知らせで案内されます。
2. 記入する
- 前年に提出した方には、前年の内容が印字された「継続用」が届きます。変更がなければ「前年から『変更なし』で申告します」に丸をして、提出年月日と氏名・電話番号を記入すれば足りると案内されています。
- 変更がある場合は、印字された項目のうち変更のある箇所だけを二重線で消して記入します。
- 押印は不要です。本人が記入できない場合は家族が代筆でき、その場合は摘要欄に代筆した旨を書きます。
3. 提出する
- 電子申請:マイナポータルと「ねんきんネット」を連携すると、スマートフォンやパソコンから提出できます。前年の内容があらかじめ入力されています。
- 郵送:同封の返信用封筒に切手(普通郵便110円)を貼って投函します。申告書をなくした場合は、日本年金機構のホームページから様式をダウンロードするか、年金事務所で入手できます。
4. 期限を過ぎた・出し忘れた場合
期限を過ぎても、すみやかに提出するよう案内されています。提出するとさかのぼって所得税額が再計算されます。提出しないまま年が明けた場合は、確定申告をすれば、控除分の多く差し引かれた所得税の還付を受けられます。
注意点
- 申告書を出しても確定申告が必要な人がいます。 年金以外に給与などの収入がある方、公的年金を2か所以上から受け取っている方、年の途中で扶養の人数が減るなど申告内容が変わった方は、確定申告が必要になる場合があると案内されています(下記の確定申告不要制度に当てはまる場合を除く)。判断に迷うときは確定申告が必要かの判断ガイドも参考にしてください。
- 確定申告不要制度との関係:公的年金等の収入が400万円以下で、それ以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告は不要とされています。ただし、医療費控除などで還付を受けたい場合は申告でき、住民税の申告は別に必要な場合があります。
- 住民税にも反映されます。 申告内容は日本年金機構から市区町村に提供され、翌年度の住民税の計算に使われます。
- 令和9年2月支払分から防衛特別所得税が加わります。 源泉徴収の合計税率は、所得税率5%×102.1%=5.105%と示されています。
- 問い合わせ先:扶養親族等申告書の相談は、市区町村や厚生労働省では対応できないとされています。日本年金機構の「扶養親族等申告書お問い合わせダイヤル」(0570-081-240)か年金事務所に相談しましょう。
よくある質問
Q1. 申告書が届きましたが、配偶者も扶養している家族もいません。提出は必要ですか? A. 本人が障害者・寡婦・ひとり親に当てはまらず、控除の対象になる配偶者や親族もいない場合は、提出の必要はないと案内されています。出さなくても基礎控除は源泉徴収の計算に入り、所得税率にも差はありません。
Q2. 去年まで届かなかったのに、今年は届きました。なぜですか? A. 令和9年分から、所得税が源泉徴収されない方でも、住民税の課税対象になり得る年金額(65歳以上は148万円以上など)の方に案内が送られるようになったためです。控除に当てはまるかを確認し、当てはまらなければ提出は不要です。
Q3. 申告書が届きません。 A. 年金額が送付の基準(65歳以上148万円、65歳未満98万円)未満の方には送られていません。また、前年に電子申請した方などは、紙ではなくマイナポータルなどのお知らせで案内されます。送られていない方は提出の必要はないとされています。
Q4. 期限の10月20日を過ぎてしまいました。 A. 期限後でも、すみやかに提出するよう案内されています。提出すれば、さかのぼって源泉徴収税額が再計算されます。期限までに提出がない方には、11月にあらためて案内のハガキが送られる予定です。
Q5. 年金をもらいながら働いています。どちらに何を出せばよいですか? A. 勤務先には給与の「扶養控除等申告書」(書き方はこちら)、日本年金機構には年金の扶養親族等申告書をそれぞれ提出します。給与と年金の両方がある場合は、申告書を出していても確定申告が必要になる場合があります(公的年金等の収入が400万円以下で、それ以外の所得が20万円以下の場合などを除く)。扶養する家族をどちらでどう申告するかは、税務署で確認すると確実です。
まとめ
公的年金等の受給者の扶養親族等申告書は、配偶者控除や障害者控除などに当てはまる人が、年金からの源泉徴収と住民税に控除を反映させるための書類です。令和9年分からは、住民税の課税対象になり得る方にも案内が届くようになったため、「届いた=提出が必要」とは限りません。
次のアクションとしては、①届いた申告書の表面の提出期限を確認する、②本人が障害者・寡婦・ひとり親か、所得62万円以下(配偶者は95万円以下)の家族がいるかを確認する、③当てはまれば前年から変更があるかを見て提出する、の順がおすすめです。最新情報は日本年金機構「老齢年金から源泉徴収される所得税の控除を受けるとき」で必ずご確認ください。
参考資料
- 日本年金機構 令和9年分の扶養親族等申告書の手続きの開始(プレスリリース・令和8年9月3日)
- 日本年金機構 令和9年分「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」の紙の提出方法
- 日本年金機構 老齢年金から源泉徴収される所得税の控除を受けるとき
- 日本年金機構 年金にかかる源泉徴収税額(PDF)
- 日本年金機構 住民税の非課税限度額基準について
- 日本年金機構 年金Q&A(扶養親族等申告書の提出)
- 日本年金機構 個人の方の電子申請(扶養親族等申告書)
- 国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係
最終確認日
最終確認日: 2026-10-10
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