年金暮らしの親の生活を支えるようになったとき、「親を扶養に入れられないか」と考える方は少なくありません。ところが「扶養」という言葉には、税金の扶養(扶養控除)と健康保険の扶養(被扶養者)の2種類があり、条件も手続き先もまったく別です。片方は対象でも、もう片方は対象外というケースがよくあります。

この記事では、親を扶養に入れるときの条件を税金と健康保険に分けて、国税庁と日本年金機構の公式情報にもとづいて整理します。令和8年分は税の所得要件が引き上げられたため、これまで対象外だった親が対象になる場合もあります。

この記事でわかること

  • 税金の扶養と健康保険の扶養の違い(年齢・収入・同居の条件)
  • 年金収入がいくらまでなら扶養に入れる目安になるか(令和8年分)
  • 遺族年金・障害年金の数え方が、税と健康保険で逆になる点
  • 別居の親を扶養に入れるときの仕送りの条件
  • 75歳以上の親、兄弟で仕送りしている場合の扱いと手続きの流れ

まず結論:税と健康保険は「別々に」判定する

親を扶養に入れるかどうかは、税金と健康保険でそれぞれ判定します。主な違いは次のとおりです。

比べる点税金の扶養(扶養控除)健康保険の扶養(被扶養者)
何が得られるか子の所得税・住民税が軽くなる親が保険料を払わずに子の健康保険に加入できる
収入の基準合計所得金額62万円以下(令和8年分)年間収入180万円未満(60歳以上の場合)
収入の数え方遺族年金・障害年金など非課税の収入は含めない遺族年金・障害年金も含める
同居・別居別居でも、常に生活費を送金していれば対象別居の場合は、親の収入が仕送り額より少ないことが必要
年齢の上限なし75歳になると後期高齢者医療制度へ移るため対象外
申告先勤務先(年末調整)または税務署(確定申告)勤務先経由で健康保険(協会けんぽ等)

税の扶養は「子の税金を軽くする」制度、健康保険の扶養は「親の保険料負担をなくす」制度と考えると、違いがつかみやすくなります。

対象になる人(ケース別)

同居している親

税金では、同居していれば通常「生計を一にする」と扱われます。国税庁は、親族が同じ家屋で生活している場合は、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、生計を一にするものとして扱うとしています。親が70歳以上なら「同居老親等」として控除額が大きくなります。

健康保険では、親の年間収入が180万円未満(60歳以上の場合)で、かつ子(被保険者)の年間収入の半分未満であることが目安です。

別居している親

税金では、別居していても「常に生活費、療養費等の送金が行われている」場合は生計を一にするものとされています(国税庁Q&A)。ただし同居老親等の加算は受けられず、70歳以上なら「老人扶養親族(同居老親等以外)」の区分になります。

健康保険では、父母・祖父母(直系尊属)は同居していなくても被扶養者になり得ますが、親の年間収入が子からの仕送り額より少ないことが条件です。年金が年150万円ある親なら、年150万円を超える仕送りが必要になる計算で、ここが別居の場合のいちばん大きな壁です。

配偶者の親(義理の親)

税金では、配偶者の親も「親族」にあたるため、生計を一にしていれば扶養控除の対象になり得ます。健康保険では、配偶者の父母は「同居していることが必要な者」に分類されています(日本年金機構)。別居している義理の親は、健康保険の扶養には入れません。

75歳以上の親

75歳になると、それまでの健康保険から後期高齢者医療制度の加入者に移ります。そのため健康保険の被扶養者にはなれません。一方、税の扶養には年齢の上限がないため、75歳以上の親でも所得要件などを満たせば扶養控除の対象になり得ます。後期高齢者医療制度の保険料については「後期高齢者医療制度とは」で解説しています。

確認するポイント

1. 親の年齢(基準日が違う)

  • 税金:その年12月31日時点の年齢で判定。70歳以上(令和8年分なら昭和32年1月1日以前生まれ)が老人扶養親族
  • 健康保険:収入基準が180万円未満になるのは60歳以上の方。75歳の誕生日からは対象外

2. 収入の数え方(遺族年金の扱いが逆)

国税庁のQ&Aでは、遺族厚生年金を年120万円程度受け取っている母について、遺族厚生年金や遺族基礎年金は非課税所得のため合計所得金額に含まれず、扶養控除の対象にできるとしています。

一方、日本年金機構は健康保険の被扶養者の収入について、公的年金や傷病手当金なども含まれるとし、障害年金・遺族年金などの非課税収入がある場合は受取金額のわかる通知書のコピーが必要としています。つまり、遺族年金が多い親は「税の扶養には入れるが、健康保険の扶養には入れない」ことがあります。

3. 同居か別居か

税金は送金の実態、健康保険は収入と仕送り額の比較で判定します。別居の場合はどちらも、送金の記録(振込の控えや通帳など)を残しておくことが大切です。

4. 兄弟姉妹と分担していないか

国税庁のQ&Aでは、兄弟で母に生活費を送金している場合でも、扶養控除の対象にできるのは兄弟のうち1人だけとされています。均等に送金していても重複して控除することはできません。誰が控除を受けるか、あらかじめ家族で決めておきましょう。

実際にいくらになるか(計算してみる)

税の扶養に入れる年金収入の目安(令和8年分)

扶養親族の所得要件は、令和8年度税制改正で58万円以下から62万円以下に引き上げられました。国税庁によると、この改正は令和8年12月1日に施行され、令和8年分から適用されます。

年金が老齢年金だけの場合、65歳以上(その年12月31日時点)の公的年金等控除は年金収入330万円未満で110万円です(国税庁 No.1600)。これを使うと目安は次のとおりです。

親の収入の種類令和7年分令和8年分
老齢年金のみ(65歳以上)年168万円以下年172万円以下
老齢年金のみ(65歳未満)年118万円以下年122万円以下
給与のみ(パートなど)年123万円以下年136万円以下

計算式は「年金収入−公的年金等控除=所得」です。たとえば65歳以上で年金収入172万円なら、172万円−110万円=62万円となり、要件ちょうどです。年金と給与の両方がある場合は合算して判定するため、計算が複雑になります。迷う場合は税務署に確認しましょう。

ケース別の判定例

ケースA:72歳の母・同居・老齢年金のみ年170万円

  • 税:170万円−110万円=60万円。令和7年分は58万円を超えて対象外でしたが、令和8年分は62万円以下のため同居老親等の対象になり得ます
  • 健康保険:170万円は180万円未満。子の年収が340万円を超えていれば半分未満の条件も満たし、被扶養者になり得ます

ケースB:68歳の父・別居・老齢年金のみ年150万円・仕送り月5万円

  • 税:150万円−110万円=40万円で所得要件を満たします。常に送金していれば、一般の控除対象扶養親族(70歳未満)の対象になり得ます
  • 健康保険:収入150万円が仕送り額の年60万円を上回るため、被扶養者にはなれません

ケースC:68歳の母・同居・遺族厚生年金年120万円+老齢基礎年金年70万円

  • 税:遺族厚生年金は数えないため、70万円−110万円で所得は0円。扶養控除の対象になり得ます
  • 健康保険:遺族年金も含めて年190万円となり、180万円以上のため対象外です

減税額の目安

減税額は「所得税の控除額×所得税率+住民税の控除額×10%」で概算できます。所得税率10%の場合の目安です(復興特別所得税は省略)。

区分所得税の控除額住民税の控除額減税額の目安
一般の控除対象扶養親族(70歳未満の親)38万円33万円約7.1万円
老人扶養親族(同居老親等以外)48万円38万円約8.6万円
同居老親等58万円45万円約10.3万円

住民税の扶養親族の所得要件も、総務省の資料によると令和9年度分(令和8年の所得で計算)から62万円以下に引き上げられる予定とされています。税率ごとの金額は「扶養控除はいくら?」も参考にしてください。

手続き・流れ

税の扶養(会社員の場合)

  1. 勤務先に提出する「扶養控除等(異動)申告書」の控除対象扶養親族の欄に親を記入します
  2. 年の途中で扶養に入れる場合は、異動の申告書を出し直します
  3. 12月の年末調整で控除が反映されます
  4. 年末調整で申告し忘れた場合は、確定申告(還付申告)で控除を受けられます。還付申告は翌年1月1日から5年間提出できるとされています

健康保険の扶養

  1. 勤務先に「健康保険 被扶養者(異動)届」の提出を依頼します(事実発生から5日以内に事業主が提出)
  2. 主な添付書類は、続柄の確認書類(マイナンバーの記載などで省略できる場合あり)、収入の確認書類(年金額の改定通知書の写し、課税・非課税証明書など)、別居の場合は仕送りの確認書類(送金者名・受取人名・金額がわかる通帳の写しや現金書留の控え)です
  3. 親がパートなど給与収入だけの場合、令和8年4月1日以降は労働条件通知書などの労働契約の内容から見込まれる年間収入で判定する方法も設けられました。ただし日本年金機構は、障害年金など給与以外の収入があるとこの方法は使えないとしています

健康保険組合や共済組合に加入している場合は、基準の運用や必要書類が異なることがあります。加入先に確認しましょう。

注意点

  • 税の扶養と健康保険の扶養は別制度です。片方の手続きをしても、もう片方には反映されません
  • 65歳以上の親は、健康保険の扶養に入っても介護保険料は別にお住まいの市区町村に納める仕組みです(協会けんぽ)
  • 老人ホームに入所している親は、税金上の「同居」にはあたらないとされています。一方、病気の治療のための入院は、長期でも同居として扱って差し支えないとされています
  • 親の収入が増えて基準を超えたときは、健康保険は扶養を外す届出が必要です。税は年末の状況で判定し直します
  • 本記事の金額は令和8年分・令和8年度の目安です。税制や認定基準は改正されることがあるため、個別の判断は税務署や加入先の保険者に確認しましょう

よくある質問

Q1. 親が年金を年175万円受け取っています。どちらかの扶養には入れますか? 65歳以上で老齢年金だけなら、所得は65万円となり令和8年分の税の要件(62万円以下)を超えます。健康保険は180万円未満のため、同居で子の年収の半分未満などの条件を満たせば被扶養者になり得ます。このように「健康保険だけ入れる」ケースもあります。

Q2. 別居の親に毎月仕送りしていますが、記録が必要ですか? 税金では、勤務先に証明書類を出すことまでは法令上求められていません。ただし国税庁のQ&Aは、勤務先が振込票や現金書留の写しなどで送金の事実を確認することを勧めています。記録は残しておくと安心です。健康保険では別居の場合、仕送りが確認できる書類の添付が求められます。

Q3. 親が75歳になったらどうなりますか? 健康保険の被扶養者からは外れ、後期高齢者医療制度に加入して保険料を納めることになります。税の扶養控除は年齢の上限がないため、所得要件などを満たせば引き続き対象になり得ます。

Q4. 兄と私で半分ずつ仕送りしています。2人とも扶養控除を受けられますか? 受けられません。国税庁のQ&Aでは、兄弟が均等に送金していても扶養控除の対象にできるのは1人だけとされています。

Q5. 去年分の扶養控除を申告し忘れていました。今からでも間に合いますか? 確定申告(還付申告)で受けられる場合があります。還付申告は翌年1月1日から5年間提出できるとされています。手続きは税務署やe-Taxで確認できます。

まとめ

親を扶養に入れるときは、税金と健康保険を分けて考えることが出発点です。税の扶養は合計所得62万円以下(令和8年分)で、遺族年金などの非課税収入は数えません。健康保険の扶養は年間収入180万円未満(60歳以上)で非課税の年金も含み、別居なら仕送り額が親の収入を上回る必要があります。

まずは親の年金額の通知書で収入の内訳を確認し、税は年末調整の書類、健康保険は勤務先の担当者に相談するところから始めましょう。最新情報は国税庁 No.1180 扶養控除と日本年金機構で必ずご確認ください。

参考資料

最終確認日

最終確認日: 2026-10-03


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