60歳を過ぎても働き続ける方が増えています。そのとき気になるのが、「働きながら年金を受け取ると、年金が減ってしまうのではないか」という点です。
この、給与と年金の合計額に応じて老齢厚生年金の一部が支給停止になるしくみを「在職老齢年金」といいます。そして令和8年4月から、支給停止が始まる基準額が51万円から65万円へ引き上げられました。これまで「年金が止まるから働き方を抑えていた」という方にとっては、影響の大きい改正です。
この記事では、在職老齢年金のしくみと、実際にいくら支給停止になるのかを、日本年金機構の公式情報をもとに計算しながら整理しました。
この記事でわかること
- 在職老齢年金のしくみと対象になる人
- 令和8年4月からの改正内容(51万円→65万円)
- 支給停止額の計算式と、その中に出てくる用語の意味
- 実際にいくら支給停止になるか(パターン別に計算)
- 改正でどれくらい変わるかとFAQ
まず結論
在職老齢年金の要点は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る方 |
| 対象になる年金 | 老齢厚生年金の報酬比例部分 |
| 対象にならない年金 | 老齢基礎年金(全額支給される) |
| 支給停止調整額(令和8年度) | 65万円(令和8年3月以前は51万円) |
| 判定の基準 | 基本月額+総報酬月額相当額 |
| 65万円以下なら | 年金は全額支給 |
ポイントは2つあります。ひとつは、支給停止の対象は老齢厚生年金だけで、老齢基礎年金(国民年金部分)は減らないとされていること。もうひとつは、合計が65万円以下なら1円も止まらないということです。
厚生年金と国民年金の役割の違いについては厚生年金と国民年金の違いもあわせてご覧ください。
令和8年4月からの改正
日本年金機構によると、令和7年の年金制度改正法にもとづき、支給停止の基準額が次のように見直されたとされています。
| 時期 | 支給停止調整額 |
|---|---|
| 令和8年3月以前 | 51万円 |
| 令和8年4月以降 | 65万円 |
14万円の引き上げです。この基準額は「毎年度、賃金の変動に応じて改定される」とされているため、今後も変わる可能性があります。
これまでは「年金が減るのが嫌だから、勤務日数を減らす」「賞与を抑える」といった働き方の調整をする方がいるとされてきました。基準額が65万円に上がったことで、そうした調整をしなくても年金が全額支給されるケースが増えることになります。
対象になる人
在職老齢年金のしくみが適用されるのは、次の方とされています。
- 65歳以上で、厚生年金保険の被保険者として働いている方
- 70歳以上で、厚生年金の適用事業所に勤務している方(70歳以上は厚生年金の被保険者にはなりませんが、しくみの対象になるとされています)
- 60歳台前半に特別支給の老齢厚生年金を受け取りながら働く方
一方、次のような場合は対象になりません。
- 自営業・フリーランスなど、厚生年金に加入していない働き方:給与がいくらあっても年金は減りません
- 老齢基礎年金のみを受け取る方:老齢基礎年金は支給停止の対象外とされています
パート・短時間勤務の方が厚生年金に加入するかどうかについては厚生年金の加入条件をご覧ください。
計算式と用語のしくみ
支給停止額の計算式
日本年金機構によると、令和8年4月以降の計算方法は次のとおりとされています。
基本月額+総報酬月額相当額が65万円以下の場合
年金は全額支給(支給停止なし)
基本月額+総報酬月額相当額が65万円を超える場合
支給される年金月額 = 基本月額 -(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷ 2
超えた分の半分だけが支給停止になる、という形です。全額が止まるわけではない点は、誤解されやすいところです。
「基本月額」とは
日本年金機構によると、基本月額は「加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額」とされています。
年額を12で割った額と考えるとイメージしやすくなります。ここに老齢基礎年金は含まれません。
「総報酬月額相当額」とは
日本年金機構によると、総報酬月額相当額は次の式で計算されるとされています。
(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷ 12
つまり、月給だけでなく賞与も月割りにして足すという点がポイントです。
たとえば標準報酬月額が38万円、直近1年間の賞与が合計100万円だった方の場合、
- 100万円 ÷ 12 = 約8.3万円
- 38万円 + 8.3万円 = 約46.3万円
が総報酬月額相当額となります。「月給は38万円だから大丈夫」と思っていても、賞与を含めると判定額は上がる、ということです。
標準報酬月額の決まり方については社会保険料の計算方法もあわせてご覧ください。
実際にいくらになるか(計算してみる)
式だけではわかりにくいので、実際の数字を当てはめて計算してみます。すべて令和8年4月以降の基準額65万円で計算します。
パターン別の支給停止額
| 基本月額 | 総報酬月額相当額 | 合計 | 支給停止額 | 支給される年金月額 |
|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 46万円 | 56万円 | 0円 | 10万円(全額) |
| 10万円 | 55万円 | 65万円 | 0円 | 10万円(全額) |
| 10万円 | 60万円 | 70万円 | 2.5万円 | 7.5万円 |
| 12万円 | 60万円 | 72万円 | 3.5万円 | 8.5万円 |
| 15万円 | 55万円 | 70万円 | 2.5万円 | 12.5万円 |
| 15万円 | 70万円 | 85万円 | 10万円 | 5万円 |
| 20万円 | 80万円 | 100万円 | 17.5万円 | 2.5万円 |
計算の途中を1行で追ってみます。基本月額12万円・総報酬月額相当額60万円の方の場合、
- 合計:12万円 + 60万円 = 72万円
- 65万円を超えた額:72万円 − 65万円 = 7万円
- 支給停止額:7万円 ÷ 2 = 3.5万円
- 支給される年金:12万円 − 3.5万円 = 8.5万円
たとえば老齢厚生年金の報酬比例部分が月12万円で、賞与込みの総報酬月額相当額が60万円という方であれば、月8.5万円が支給される計算です。
一方、日本年金機構が挙げている例のように、基本月額10万円・総報酬月額相当額46万円の方は合計56万円で65万円以下となるため、年金は全額10万円が支給される計算になります。
改正でどれくらい変わるか
同じ条件で、改正前の基準額51万円と比べてみます。
| 基本月額 | 総報酬月額相当額 | 改正前(51万円)の支給額 | 改正後(65万円)の支給額 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 46万円 | 7.5万円 | 10万円 | +2.5万円 |
| 12万円 | 60万円 | 1.5万円 | 8.5万円 | +7万円 |
| 15万円 | 50万円 | 8万円 | 15万円 | +7万円 |
| 15万円 | 70万円 | 0円(全額停止) | 5万円 | +5万円 |
たとえば基本月額12万円・総報酬月額相当額60万円の方であれば、改正前は月1.5万円しか受け取れなかったところが、改正後は月8.5万円。差額は月7万円、年間にすると84万円の違いになる計算です。
全額停止になるのはどんなときか
支給停止額が基本月額以上になると、年金は全額停止になります。式を整理すると、
基本月額 ≦ 総報酬月額相当額 - 65万円
のときに全額停止となる計算です。たとえば総報酬月額相当額が80万円の方の場合、基本月額が15万円以下だと全額停止になります(合計95万円 → 停止額15万円 = 基本月額)。
かなり高い水準の報酬でないとここには届かないため、多くの方にとって全額停止は現実的ではなくなった、と言えます。
計算にあたっての注意
上の金額は、しくみを理解していただくための目安です。実際には次の点にご注意ください。
- 支給停止の対象は老齢厚生年金の報酬比例部分だけで、老齢基礎年金は全額支給されるとされています。上の表の「支給される年金月額」に老齢基礎年金は含まれていません
- 総報酬月額相当額は標準報酬月額と直近1年間の標準賞与額から計算されるため、月ごとに変わる場合があります
- 支給停止調整額(65万円)は毎年度改定されるとされています
- 加給年金額は基本月額に含めませんが、老齢厚生年金が全額停止になると加給年金額も停止されるとされています
ご自身の正確な金額は、年金事務所または年金相談センターにご確認ください。
繰下げ受給との関係
在職老齢年金と繰下げ受給を組み合わせて考えている方は、次の点にご注意ください。
日本年金機構によると、在職老齢年金のしくみで支給停止となる部分は、繰下げによる増額の対象にならないとされています。
つまり「働いている間は年金が止まるから、その分繰り下げて増やそう」と考えても、止まっていた部分は増額されないということです。基準額が65万円に上がって支給停止となる方が減れば、この点の影響を受ける方も減ることになります。
手続き・確認の流れ
ステップ1:自分の基本月額を確認する
「ねんきん定期便」やねんきんネット、年金事務所で、老齢厚生年金(報酬比例部分)の見込み額を確認します。年額を12で割った額が基本月額の目安です。
ステップ2:総報酬月額相当額を計算する
給与明細や勤務先の担当部署で標準報酬月額を確認し、直近1年間の賞与の合計を12で割った額を足します。
ステップ3:合計が65万円を超えるか判定する
超えなければ支給停止はありません。超える場合は、超えた額の半分が支給停止額です。
ステップ4:必要な届出をする
在職老齢年金による支給停止は、勤務先からの届出などにもとづいて年金事務所側で処理されるのが基本です。特別な申請は不要とされていますが、扱いはケースにより異なるため、年金事務所にご確認ください。
注意点
- 老齢基礎年金は在職老齢年金の対象外とされています。「働くと年金が全部止まる」わけではありません
- 賞与は月割りにして判定額に含まれるため、月給だけで判断すると見誤ることがあります
- 支給停止調整額は毎年度改定されるとされています。この記事の65万円は令和8年度時点の額です
- 支給停止になった年金は、あとから受け取れるわけではないとされています
- 厚生年金に加入しない働き方(自営業など)では、収入がいくらでも在職老齢年金の対象になりません
- 60歳台前半に受け取る特別支給の老齢厚生年金の取り扱いは、生年月日によって異なる場合があります
よくある質問(FAQ)
Q1. 働くと年金が全部止まってしまいますか? A. 65万円を超えた分の半分だけが支給停止の対象とされており、超えても全額が止まるわけではありません。また、老齢基礎年金は支給停止の対象外とされています。
Q2. 65万円というのは月額ですか、年額ですか? A. 月額の基準です。基本月額と総報酬月額相当額を足した「月あたり」の額で判定されるとされています。
Q3. 自営業やフリーランスで働く場合はどうなりますか? A. 厚生年金に加入しない働き方の場合、在職老齢年金のしくみの対象にはならないとされています。
Q4. 支給停止された年金は、退職後に受け取れますか? A. 支給停止された分をあとからまとめて受け取れるわけではないとされています。ただし退職後は支給停止がなくなり、その後の年金額に反映される場合があります(退職改定)。詳しくは年金事務所にご確認ください。
Q5. 基準額の51万円→65万円はいつから適用ですか? A. 日本年金機構によると、令和8年4月から適用されたとされています。
まとめ
- 在職老齢年金は、厚生年金に加入して働きながら老齢厚生年金を受け取るときのしくみ
- 令和8年4月から支給停止調整額が51万円から65万円に引き上げられた
- 判定は「基本月額+総報酬月額相当額」。65万円以下なら年金は全額支給
- 超える場合の支給停止額は「(基本月額+総報酬月額相当額−65万円)÷2」
- 基本月額12万円・総報酬月額相当額60万円なら、改正後の支給額は月8.5万円(改正前は1.5万円)という計算になる
- 老齢基礎年金は支給停止の対象外とされている
- 最新情報は日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」で必ずご確認ください
60歳以降の働き方を考えるうえで、在職老齢年金は大きな判断材料のひとつです。ご自身の基本月額と総報酬月額相当額を確認したうえで、年金事務所や年金相談センターでご相談ください。
参考資料
最終確認日
最終確認日: 2026-07-17
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