仕事中のけがや通勤中の事故で働けなくなったとき、収入が途切れる不安は大きいものです。このときに使えるのが、労災保険の「休業(補償)等給付」です。
厚生労働省によると、労災保険は原則として労働者を1人でも使用する事業のすべてに適用され、アルバイトやパートタイマーなどの雇用形態を問わず労働者であれば対象になるとされています。保険料は原則として事業主が負担するため、働く側の負担はありません。
一方で、この給付は自分で請求しないと支給されない制度です。しかも請求権には2年の時効があります。この記事では、休業(補償)等給付のしくみと申請の流れを、厚生労働省の公式情報をもとに整理しました。
この記事でわかること
- 休業(補償)等給付を受けられる3つの要件
- 「休業4日目から8割」の内訳(60%+20%)と計算方法
- 最初の3日間(待期期間)は誰が補償するのか
- 給付基礎日額の求め方と、令和8年8月からの最低保障額
- 申請の手続き(様式第8号・様式第16号の6)と2年の時効
- 健康保険の傷病手当金との違い
業務外のけが・病気で休んだ場合の給付については、傷病手当金とは?対象・金額・期間・申請方法をご覧ください。この記事は、仕事中・通勤中が原因のケースを扱います。
まず結論
休業(補償)等給付の要点は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| どんなとき | 業務上または通勤による負傷・疾病の療養のため働けず、賃金を受けていないとき |
| いつから | 休業4日目から(初日から3日目は待期期間) |
| いくら | 給付基礎日額の60%(休業補償給付等)+20%(休業特別支給金)=合計80% |
| いつまで | 療養のため働けず賃金を受けない日ごとに支給(療養開始後1年6か月で傷病(補償)等年金に切り替わる場合がある) |
| 請求先 | 勤務先を管轄する労働基準監督署 |
| 時効 | 賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 |
なお、労災保険の給付の名称は災害の種類によって変わります。業務災害は「休業補償給付」、通勤災害は「休業給付」、複数事業労働者の業務要因災害は「複数事業労働者休業給付」で、これらをまとめて「休業(補償)等給付」と呼びます。
対象になる3つの要件
厚生労働省のパンフレットによると、次の3つの要件をすべて満たす場合に、その第4日目から休業(補償)等給付と休業特別支給金が支給されるとされています。
- 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のためであること
- 労働することができないこと
- 賃金を受けていないこと
「労働することができない」というのは、必ずしも入院している状態だけを指すものではありません。療養のために従前の仕事ができない状態であるかどうかが判断されます。また、有給休暇を使った日など賃金を受けている日は、3つ目の要件を満たさないことになります。
対象になるのは正社員だけではありません。厚生労働省は、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ないとしています。
いくら支給されるか
基本の計算式
単一の事業場のみに使用されている労働者の場合、支給額は次のとおりです。
- 休業補償給付・休業給付 =(給付基礎日額の60%)× 休業日数
- 休業特別支給金 =(給付基礎日額の20%)× 休業日数
この2つを合わせて、休業1日につき給付基礎日額の80%が支給されることになります。
厚生労働省が示している例では、給付基礎日額が6,522円の場合、保険給付が6,522円×0.6=3,913円、特別支給金が6,522円×0.2=1,304円で、合計5,217円となります。
給付基礎日額とは
「給付基礎日額」は、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額とされています。平均賃金とは、事故が発生した日または医師の診断によって疾病の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときはその直前の賃金締切日)の直前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った1日あたりの賃金額です。ボーナスや臨時に支払われる賃金は含みません。
暦日数で割るため、月給制の場合は「月給÷30日」に近い金額になります。たとえば月給30万円(3か月で90万円、暦日数92日)なら、給付基礎日額はおよそ9,783円。その80%は約7,826円で、20日休業した場合はおよそ15万6,000円という計算になります。
なお、給付基礎日額には最低保障額が設けられており、厚生労働省によると令和8年8月1日以降に適用される最低保障額は4,350円です(改定前の4,250円から100円引き上げ)。
一部だけ働いた日の扱い
通院のために所定労働時間の一部を休んだ場合は、給付基礎日額から実際に労働した部分に対して支払われる賃金額を控除した額の60%(特別支給金と合わせて80%)が支給されるとされています。
複数の会社で働いている場合
事業主が同一でない複数の事業場に同時に使用されている「複数事業労働者」の場合は、複数就業先に係る給付基礎日額に相当する額を合算した額をもとに、60%・20%が計算されるとされています。副業・兼業をしている方は、すべての勤務先の賃金が反映される点を押さえておきましょう。
最初の3日間(待期期間)はどうなるか
休業の初日から第3日目までは「待期期間」といい、労災保険からの休業(補償)等給付は支給されません。この3日間の扱いは、災害の種類によって異なります。
| 災害の種類 | 待期期間3日間の扱い |
|---|---|
| 業務災害 | 事業主が労働基準法の規定にもとづく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行うこととされている |
| 複数業務要因災害・通勤災害 | 事業主の補償責任についての法令上の規定はない |
つまり、通勤中の事故で休んだ場合、最初の3日間については法律上の補償の定めがありません。会社の就業規則で独自の補償が定められていることもあるため、勤務先に確認してみてください。
健康保険の傷病手当金にも3日間の待期がありますが、要件の数え方や待期中の補償の有無は制度ごとに異なります。自分のケースでどう扱われるかは、労働基準監督署または加入している健康保険にご確認ください。
通勤災害では200円の一部負担金がある
通勤災害で療養給付を受ける場合、初回の休業給付から一部負担金として200円(日雇特例被保険者については100円)が減額されるとされています。金額は小さいものの、通知を見て「計算が合わない」と感じないよう、知っておくとよいでしょう。
申請の手続き
提出する書類
請求書の様式は、災害の種類によって分かれています。
| 災害の種類 | 請求書の様式 |
|---|---|
| 業務災害 | 様式第8号(休業補償給付支給請求書) |
| 通勤災害 | 様式第16号の6(休業給付支給請求書) |
請求書には事業主による証明と医師(診療担当者)による証明の欄があります。まず勤務先に証明をもらい、療養を受けている医療機関に証明を依頼したうえで、勤務先を管轄する労働基準監督署に提出するのが一般的な流れです。複数事業労働者の場合は、他の事業場についての別紙を添付します。
なお、2回目以降の請求が離職後である場合には、事業主による請求書への証明は必要ないとされています(ただし、その請求における休業期間の全部または一部が離職前に係るものである場合は証明が必要です)。会社とのやり取りが難しくなった場合でも請求を続けられるよう配慮されたしくみです。
請求のタイミングと時効
休業(補償)等給付は、療養のため労働することができないため賃金を受けない日ごとに請求権が発生します。そして、その翌日から2年を経過すると時効により請求権が消滅するとされています。長期の休業になる場合は、1か月ごとなど区切って請求していくのが一般的です。
手続きで困ったとき
労災の認定や請求書の書き方で迷ったときは、勤務先を管轄する労働基準監督署が相談窓口になります。厚生労働省は「労災保険相談ダイヤル」(0570-006031、月〜金 8時30分〜17時15分)も案内しています。
1年6か月を過ぎたらどうなるか
療養を開始してから1年6か月を経過しても治ゆ(症状固定)せず、その傷病の状態が傷病等級(第1級〜第3級)に該当するときは、休業(補償)等給付から傷病(補償)等年金に切り替わるとされています。年金額は給付基礎日額の313日分〜245日分です。
傷病等級に該当しない場合は、引き続き休業(補償)等給付が支給されます。ただし、療養開始後1年6か月を経過した場合は、休業給付基礎日額に年齢階層別の最低・最高限度額が適用されるとされています。
治ゆ(症状固定)した後に障害が残った場合は、障害(補償)等給付の対象になります。第1級〜第7級は年金(給付基礎日額の313日分〜131日分)、第8級〜第14級は一時金(給付基礎日額の503日分〜56日分)とされています。
なお、公的年金の障害年金は労災保険とは別の制度です。両方の対象になる場合は調整が行われることがあります。障害年金のしくみは障害年金とは?対象になる人・等級・金額(令和8年度)と申請の流れをご覧ください。
健康保険の傷病手当金との違い
「仕事を休んだときの給付」としては健康保険の傷病手当金もありますが、両者は別の制度で、原因によって使い分けます。
| 項目 | 休業(補償)等給付(労災保険) | 傷病手当金(健康保険) |
|---|---|---|
| 原因 | 業務上・通勤による負傷・疾病 | 業務外の負傷・疾病 |
| 支給額の目安 | 給付基礎日額の80%(60%+20%) | 標準報酬日額の3分の2 |
| 支給開始 | 休業4日目から | 連続3日の待期後、4日目から |
| 待期3日の補償 | 業務災害は事業主が平均賃金の60%を補償 | なし |
| 保険料負担 | 事業主が負担 | 労使折半 |
| 請求先 | 労働基準監督署 | 加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など) |
| 医療費の自己負担 | 療養(補償)等給付により原則なし | 原則3割(高額療養費あり) |
業務上のけがや病気については健康保険の給付は行われないのが原則です。仕事中のけがで健康保険証を使って受診してしまった場合は、あとから労災保険への切り替え手続きが必要になることがあるため、早めに勤務先と医療機関、加入している健康保険に相談してください。
健康保険から受けられる給付の全体像は協会けんぽの給付一覧にまとめています。
注意点
- 金額は改定されます。給付基礎日額の最低保障額や年齢階層別限度額は毎年8月1日に見直されます。最新の額は厚生労働省の公式サイトでご確認ください
- 時効は2年です。賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年で消滅するとされています。休業が長引く場合はこまめに請求しましょう
- 労災かどうかの判断は労働基準監督署が行います。業務との因果関係が争点になるケース(過重労働による疾病、精神障害など)では、認定に時間がかかることがあります
- 会社が労災保険に未加入でも、労働者は給付を受けられる場合があります。手続きについては労働基準監督署にご相談ください
- 事業主の証明が得られないときは、まず労働基準監督署に相談を。証明が得られない事情を説明して提出できる場合があります
- 個別の判断は専門家へ。認定に争いがある場合や、会社への損害賠償請求を検討する場合は、労働基準監督署、社会保険労務士、弁護士などにご相談ください
よくある質問
Q1. パート・アルバイトでも労災保険の対象になりますか?
A. 厚生労働省は、原則として1人でも労働者を使用する事業はすべて労災保険の適用対象であり、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ないとしています。加入手続きは事業主が行うもので、労働者側の申し込みは不要です。
Q2. 有給休暇を使って休んだ日も対象になりますか?
A. 休業(補償)等給付の要件のひとつが「賃金を受けていないこと」です。有給休暇を取得して賃金が支払われた日は、この要件を満たさないことになります。どちらを使うかは休業期間の見通しなども踏まえて、勤務先や労働基準監督署にご相談ください。
Q3. 会社を辞めた後も受け取れますか?
A. 労災保険の給付は、離職したことによって受給権が失われるものではないとされています。厚生労働省のパンフレットでも、2回目以降の請求が離職後である場合には事業主による証明が不要とされるなど、離職後の請求を前提とした取扱いが示されています。
Q4. 給料の全額は補償されないのですか?
A. 労災保険から支給されるのは給付基礎日額の80%(60%+20%)が基本です。残りの部分については、会社の就業規則による上乗せ補償や、労働災害に関する損害賠償の問題として扱われることがあります。具体的な対応は弁護士などの専門家にご相談ください。
Q5. 通勤の途中でスーパーに寄った後の事故も通勤災害になりますか?
A. 通勤の経路を逸脱・中断した場合の取扱いには細かい定めがあり、日常生活上必要な行為をやむを得ない事由で最小限度の範囲で行う場合など、例外的に通勤と認められるケースもあります。個別の判断は労働基準監督署にご確認ください。
まとめ
- 休業(補償)等給付は、業務上・通勤によるけがや病気で働けず賃金を受けていないときに、休業4日目から支給される
- 支給額は給付基礎日額の60%(保険給付)+20%(休業特別支給金)=80%が目安
- 給付基礎日額は、直前3か月の賃金総額を暦日数で割った額(労働基準法の平均賃金相当)。令和8年8月1日以降の最低保障額は4,350円
- 待期期間の3日間は、業務災害なら事業主が平均賃金の60%を補償する。通勤災害には法令上の規定がない
- 請求は様式第8号(業務災害)または様式第16号の6(通勤災害)を労働基準監督署へ。時効は2年
- 療養開始後1年6か月で傷病等級に該当すると、傷病(補償)等年金に切り替わる
- 業務外の病気・けがは健康保険の傷病手当金が対象で、制度が分かれている
- 最新情報は厚生労働省「労災補償」で必ずご確認ください
労災に該当するかどうかの判断や、支給額の具体的な計算は、勤務先を管轄する労働基準監督署が窓口です。認定に不安がある場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家にもご相談ください。
迷ったときの問い合わせ先
- 労災の認定・請求手続き:勤務先を管轄する労働基準監督署
- 制度全般の相談:労災保険相談ダイヤル(0570-006031/月〜金 8時30分〜17時15分)
- 請求書の事業主証明:勤務先の人事・労務担当部署
- 健康保険との切り替え:加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など)
- 会社との争いがある場合:社会保険労務士、弁護士、都道府県労働局の総合労働相談コーナー
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参考資料
- 厚生労働省「労災補償」
- 厚生労働省「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」(PDF)
- 厚生労働省「休業(補償)等給付の計算方法を教えてください。」
- 厚生労働省「労災保険給付の概要」
- 厚生労働省「労災年金給付等に係るスライド率等について」
最終確認日
最終確認日: 2026-08-06
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